カニは大きく【活カニ】と【茹カニ】の2種類に分かれます。
競りに並ぶのは、全て「活カニ」。
「茹カニ」は、仕入れた活カニを仲買人が茹で加工したものです。
活カニは、文字通り「活きているカニ」。
水揚げされてからそのまま、何も手を加えられていない状態です。
食べるためには、捌いて調理する必要がありますし、その過程でカニを絞める(殺す)事になります。
技術的にはそれほど難しくありませんが(魚の3枚おろしの方が難しい)、心理的にダメな方もいらっしゃるでしょう。
利点としては料理法がバラエティーに富んでいて、焼カニ、カニすき(鍋)、カニ刺し、カニしゃぶ、甲羅焼き等々、1匹のカニを様々な料理で召し上がっていただけます。
一方の茹カニは「カニを塩水で茹でたもの」。
活きてるカニを絞め、茹でる事で加熱調理し、同時に塩加減で調味もしてあることから、すぐにそのままで召し上がっていただけます。
また茹でる過程で身の水分が殻の中を循環し、身の旨味成分が甲羅の味噌へと加わることから、茹カニのカニ味噌は、他の調理法には無い深く芳醇な味わいとなります。
一方ではそのまま食べる以外に方法が無いため、味を単調に感じられるやも知れません。
また「冷蔵保存」が必須ですが、再加熱は味を損ねてしまいますので、基本的に冷たいまま召し上がっていただく事になります。
時折、茹カニを鍋などに入れて召し上がる方もいらっしゃいますが、茹で調理によってすでにカニの旨味が出てしまっており、また再加熱により身がパサパサになるリスクもありますので、あまりお勧めしません。
このカニを「茹でる」という作業は、「茹で時間」と「塩加減」というシンプルな2つの要素で成り立っており、一見すると最も簡単な調理方法に思えますが、実際にはカニ1匹1匹の状態に合わせた細かな微調整が必要な作業です。
茹で時間が短い、あるいは火加減が弱く加熱不足になると、カニの身が半生の状態になり、含まれるタンパク質の酸化が止まらないため、茹でた直後は問題なくとも、時間が経過すると全身が死んだカニのように黒変してしまいます。
反対に茹で時間が長すぎる、また火加減が強すぎた場合、繊維状の身が過剰に収縮し、隙間が生じたスカスカの身になってしまいます。
また茹で上がったカニの味(塩味)も、茹で時間と身入りの良し悪しで変化するため、あるカニは酷く水っぽく、またあるカニは塩辛いといったケースが出てきます。
水1000ccあたり食塩を何g入れて沸騰させ、カニを入れてから何分茹でる。
こうした数値化、マニュアル化ができれば良いのですが、実際にはこれでは上手く茹でる事ができません。
私がカニを茹でるときは、沸騰の加減とカニの状態をチェックしながらこまめに火加減を調整し、カニの投入から茹で上がりまでの30〜40分間は片時も目を離しません。
このような技術的な難しさもさることながら、茹で調理は、カニ自体の品質が最も大きく影響する調理法でもあります。
身入りが悪いと、甲羅のカニ味噌が腹から足の部分へと流れ出し、売り物にならなくなります。
また足や関節部分に傷があると、たとえそれが小さな傷であっても、そこから身の中に水分が入り込んでしまいます。
活カニを用いた他の調理法では、カニ自体の品質に多少の難があっても、茹で調理ほど顕著には現れません。
不適切な表現かもしれませんが、身入りが多少悪くても、傷があっても、それなりに美味しく召し上がっていただけます。
しかし、茹で調理は僅かな難点であっても結果に現れてしまいます。
そのため「茹カニ」の注文をいただいた際には、競りに臨むにあたっても非常に神経質になりますが、残念ながら茹で上がりを見てガッカリすることが少なくありません。
特に近年は、水揚げされるカニの多くが身入りの良くない「若い個体」に偏っており、身入りの良い「成熟した個体(長生きしているカニ)」が減っています。
そのため競りにおいても、身入りが良い、茹でに適しているカニには複数の仲買人が次々に値を付け合い、非常に高値となってしまいます。
どんなカニでも、茹でて問題ない訳ではありません。
茹でに適した個体もあれば、「茹でると台無しになる個体」もあります。
活カニに比べ、茹カニが割高なのはこのような理由がある訳です。
なお、競りには「水死」や「絞め」という区分のカニも並びます。
これらはいずれも死んでしまったカニで、価格は非常に安いものの、品質に関してはお勧めできない品物です。
特に「茹カニ」の場合、活きたカニを絞めて茹でたものと、死んだカニを茹でたものでは雲泥の差がありますが、一見して区別がつきません。
それを言うならば、茹カニを冷凍→解凍したものも、一般の方では見分けがつかないでしょう。
言い出すときりがないですが、カニはいくらでも誤魔化しが利く品物です。
品物と同じくらい、シビアに売り手を選んでいただきたく思います。
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